都会的なくつろぎを、二つの表情で| 都内民泊2室のインテリアコーディネート
2026.09.03
今回ご依頼いただいたのは、都内にある民泊2室のインテリアコーディネート。
インテリアクリエイターズ協会を通じて、民泊事業を手がける会社の代表をご紹介いただいたことから始まった案件でした。
先方からいただいたご要望は、「清潔感のあるホテルライクな空間」。
自社で管理されている物件ということもあり、細かなコンセプトやデザインについては、ある程度お任せいただけることになりました。
自由度が高いからこそ、こちらの提案力が問われる案件でもあります。
どんな空間なら写真を見たときに印象に残るのか。
実際に宿泊したとき、心地よく過ごせるのか。
そして、運営する側にとって無理なく管理できる空間になっているか。
今回の民泊では、そんな複数の視点を行き来しながらプランを考えていきました。


共通テーマは「都会的なくつろぎ」
同じ建物にある2室ですが、まったく同じ空間にはせず、それぞれに異なる表情を持たせました。
共通して意識したのは、「都会的なくつろぎ」です。
501号室は、都会の静けさの中でくつろぐ空間。
502号室は、都会の中に柔らかな安らぎをつくる空間。
表情は異なりますが、どちらも目指したのは、都市の中で少し日常から距離を置き、心地よく過ごせる滞在空間です。
相反する2つのテイストをつくるのではなく、同じテーマを異なる方向から表現することで、宿泊される方の好みの幅を広げられるように考えました。プラン資料でも、501号室は「Urban Chic Style」、502号室は「Neutral Chic Style」と整理しています。
501|Urban Chic Style ー静けさを纏う、都会のくつろぎ

501号室は、コンクリートの無機質な表情を活かした Urban Chic Style。
グレー、チャコール、ブラックを中心に色数を抑え、都市的で洗練された印象にまとめました。
華美な装飾を加えるのではなく、素材そのものの質感や色の濃淡、光による陰影を生かし、静けさと重厚感のある空間を目指しています。
ベッドフレームやTVスタンドなど、空間を引き締める要素にはブラックを。
白いベッドリネンとグレーのファブリックを重ねることで、コントラストをつくりながらも、宿泊空間として落ち着きのある印象に整えました。

一方で、硬質な印象だけにならないよう、木の床やグリーン、丸みのある照明も取り入れています。

コンクリートの静かな緊張感と、宿泊空間としての安らぎ。
その両方が共存する、都会の中で少し日常から距離を置けるような空間を目指しました。
502|Neutral Chic Style ー都市の中で、やわらかく安らぐ

502号室は、ベージュやアイボリー、ナチュラルな木の色をベースにした Neutral Chic Style。
コンクリートの無機質な表情はそのまま活かしながら、木の温もりや柔らかなファブリックを重ねることで、都市の中にありながら、ふっと力を抜いて過ごせる空間を目指しました。
白いベッドリネンをベースに、淡いピンクベージュやグリーンのクッション、モスグリーンのテーブルライトをアクセントに。

色を加えすぎず、少しくすみのある柔らかな色を選ぶことで、コンクリートのグレーと自然になじむようにしています。
また、ナチュラルカラーのベッドフレームや小さなテーブルなど、限られた空間でも圧迫感を感じにくい家具を選びました。

ホテルのように整った印象は残しながら、少しだけ「家」のような安心感も感じられること。
それが、この部屋で表現したかった、もうひとつの“都会的なくつろぎ”です。
限られた空間に、動かせる余白を
今回の物件は、決して広い空間ではありません。
そのため、まず大切にしたのは、最低限の動線をきちんと確保することでした。
滞在の中心となるベッドは位置を固定し、それ以外の家具については、できるだけ使い方を限定しすぎないようにしています。
TV台にはキャスター付きのものを、テーブルや椅子には折りたたみができるものを採用。

宿泊する人数や過ごし方に合わせて家具を動かしたり、必要のないときにはコンパクトにしたり。
限られた広さだからこそ、家具ですべてを決め切ってしまうのではなく、使う人が調整できる余白を残すことも、心地よさのひとつだと考えています。
2室とも、ベッド、テーブル、TV、家電など複数の要素を配置しながら、動線を確保するレイアウトとしています。
見える心地よさと、見えない使いやすさ
民泊のインテリアでは、完成した瞬間の美しさだけでなく、日々の運営について考えることも欠かせません。
今回特に意識したのは、クリーニングや日々の管理のしやすさでした。
物件には、備品やストック品をしまえる隠れた収納スペースが多くありません。
そこでベッドは、床下のスペースを活用できるよう、足付きのデザインを採用しました。
宿泊者から見える場所はできるだけすっきりと整えながら、その裏側では、運営に必要なストック品をきちんと保管できるようにする。
見た目の美しさと、日々の使いやすさ。
その両方が無理なく成り立つことを意識しながら、家具を選定しています。
家具だけではない、民泊一室を整える仕事
今回、私自身にとって新しい経験だったのが、家具だけではなく、家電や生活備品まで含めて一室を整えることでした。
冷蔵庫、電子レンジ、ケトル、洗濯機といった家電から、食器、カトラリー、調理器具、タオル、ドライヤー、ソープディスペンサー、掃除機、ゴミ箱、ハンガーまで。
実際に宿泊施設として使い始められる状態をイメージしながら、必要なものを一つずつ選定しました。

そして、選んで終わりではありません。
今回は、階段のみでアクセスする建物の5階にある2室。
それぞれ商品の納期を確認し、配送日時の調整、受け取り、搬入、組み立て、取り付け、設置まで、複数の工程を並行して管理する必要がありました。
予定どおりに配送されなかったり、届いた商品に破損が見つかったり。
実際の現場では、計画どおりにいかないことも少なくありません。
その都度、販売店や配送会社と確認を取りながら再手配を行い、他の工程への影響を考えながらスケジュールを調整していきました。
2部屋分の家具や家電を把握しながら、自分自身で全体の工程を管理することは、今回特に難しさを感じた部分です。
けれど、その経験を通して改めて感じたのは、空間をつくる仕事は、デザインを考えることだけではないということ。
「どんな空間にするか」と同じくらい、「どうやってその状態までたどり着くか」を考えることも大切。
完成写真には映らない部分ですが、納期や搬入経路、設置条件、トラブルへの対応まで含めて、ひとつの空間が出来上がっていくのだと学びました。
「お任せいただくこと」と、確認をしないことは違う
今回は、初めてお仕事をご一緒するクライアントでもありました。
デザインについてある程度お任せいただけたからこそ、こちらのイメージと先方のイメージに差が生まれないよう、確認は丁寧に行うことを意識しました。
色や素材、家具の方向性など、言葉だけでは伝わりにくい部分は、プラン資料を使いながら共有。
一つずつ認識を合わせながら進めていきました。
お任せいただくということは、好きなようにつくることではありません。
相手の希望や期待を汲み取り、その中で自分なりの提案をしていく。
自由度のある案件だからこそ、対話を重ねながら進めることの大切さも、改めて感じた仕事でした。
ご縁から始まり、また次のご縁へ
今回の案件を振り返ったとき、空間づくりとは別に、もうひとつ心に残っていることがあります。
それは、人と人とのご縁です。
今回のお仕事は、インテリアクリエイターズ協会を通じて、民泊会社の代表をご紹介いただいたことから始まりました。
ひとつのご縁から仕事が始まり、さまざまな方と関わりながら、無事にお引き渡しを迎えることができました。
そして引き渡し後には、別の機会に知り合っていた民泊清掃会社を運営されている方をご紹介することに。
ご紹介いただく側だった今回の仕事で、今度は自分が新しいご縁をつなぐ側になりました。
空間をつくることだけでなく、その場所に関わる人や仕事が、そこからまた少しずつつながっていく。
仕事は、自分一人で完結するものではないのだと思います。
家具を選び、空間を整えること。
その場所を使う人を想像すること。
運営する人のことを考えること。
そして、必要な人と人をつないでいくこと。
今回の民泊案件は、私にとって初めて経験することも多く、想定外の出来事もたくさんありました。
だからこそ、完成した空間だけではなく、そこにたどり着くまでの過程も含めて、これからの仕事につながる大切な経験となりました。
PROJECT DATA
Project:民泊インテリアコーディネート
Location:Tokyo
Room:2 rooms
Style:Urban Chic / Neutral Chic
Scope:Interior coordination / Furniture / Lighting / Appliance / Styling / Delivery & Installation coordination