デンマークインテリアを生んだ「デンマーク」とは? 暮らし方は、時間の過ごし方
2026.09.18
先日、カール・ハンセン&サンで開催された「デンマークインテリアを生んだ“デンマーク”とは?」というトークセッションに参加しました。
登壇されたのは、インテリアを入り口に、デザインだけでなく、その背景にある暮らしや文化まで発信されている
HYGGESCAPEの林田さんと、Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン ジャパン)の郡司圭さん。
林田さんが実際にデンマークで暮らし、人々と交流する中で感じたことと、郡司さんのデンマークデザインの歴史や家具についての知見。
お二人の対話を通して、
「なぜ、デンマークからこのようなインテリアやデザインが生まれたのか?」
を、家具そのものだけではなく、歴史や文化、人々の暮らしから紐解いていく時間でした。
私自身、デンマークの家具やインテリアは以前から好きでしたが、今回とても印象に残ったのは、その「形」よりも、
それを生み出した人たちが何を大切にして暮らしてきたのかということでした。
新しいものをつくることだけが、デザインではない
デンマークは、必ずしも最先端を走り続けてきた国ではなかったというお話から、トークは始まりました。
ヨーロッパのほかの国々と比べて工業化がゆるやかに進み、古い建物や家具、職人によるものづくりが暮らしの中に長く残ってきたデンマーク。
その背景を知ると、デンマークデザインに感じる「新しいのに、どこか懐かしい」という感覚にも少し納得がいきます。
デンマーク近代家具デザインの礎を築いたコーア・クリントも、まったく新しい形をゼロから生み出すことより、過去の優れた家具を研究し、その構造や寸法を分析しながら、現代の暮らしに合うものへと磨き直していきました。
古いものを否定して新しいものに置き換えるのではなく、
すでにある良いものを理解して、今の暮らしに合わせてより良くしていく。
そんな姿勢が、デンマークデザインの根底には流れているように感じました。
私たちはつい「新しいもの」に価値を感じがちですが、長く残ってきたものには、残ってきた理由があります。
新しいものを探す前に、今あるものをきちんと見る。
これはインテリアだけではなく、暮らしそのものにも通じる考え方なのかもしれません。
「古いもの」が、時間によって価値を持つ
デンマークでは、祖父母や両親が使っていた家具を受け継いで使うことも珍しくないそうです。
新しいから価値があるのではなく、時間を重ねてきたことそのものが、その物の魅力になる。
今回のお話を聞きながら、私は「物への愛着」について考えていました。
インテリアの仕事をしていると、当然ながら「何を選ぶか」を考えます。
空間に合うか。
色や素材はどうか。
サイズは適切か。
もちろん、それらはとても大切です。
でも、それだけではなくて、
「これ、好きだな」
という、もっと感覚的な気持ちも大切にしたい。
最初は「かっこいい」「なんだか好き」くらいでもいい。
そこから、その家具がつくられた背景を知ったり、使いながら思い出が増えたり、傷がついたり。
そうやって時間を重ねることで、最初の「好き」が、いつの間にか「手放したくない」に変わっていく。
私は、愛着のあるものを一方的に“提案する”というより、
一緒にお気に入りを見つけて、それが時間をかけて愛着のあるものに変わっていく過程まで、一緒に楽しめるような仕事がしたい。
そんなことを改めて思いました。
Hygge(ヒュッゲ)は、ただ「心地よい」だけではない
デンマークと聞いて思い浮かべる言葉のひとつに、「Hygge(ヒュッゲ)」があります。
温かな照明、キャンドル、心地よい家具、おいしい食事。
日本では、そんな少しおしゃれな「北欧の心地よい暮らし」として紹介されることも多い言葉です。
けれど、実際にデンマークで暮らし、現地の人たちと時間を過ごした林田さんのお話からは、もう少し複雑なヒュッゲの姿が見えてきました。
大切な人と食卓を囲む。
親しい人を自宅へ招く。
長い時間を一緒に過ごす。
そこには確かに、とても温かな時間があります。
一方で林田さんは、その内側の時間を大切にするからこそ、外側からは少し閉じて見える側面も感じたそうです。
これは「デンマークの人は閉鎖的」という単純な話ではありません。
誰と時間を過ごすのかを、とても大切にしている。
誰とでも広くつながることではなく、本当に大切な人との時間を大切にする。
そう考えると、ヒュッゲとは単に「居心地のよい空間」をつくることではなく、
「誰と、どんな時間を過ごしたいのか」
という、生き方そのものに近い言葉なのかもしれません。
暮らし方とは、時間の過ごし方
今回のトークの中で、私が特に心に残ったことがあります。
暮らし方とは、時間の過ごし方なのではないか。
インテリアの仕事をしていると、どうしても目に見えるものを扱います。
家具、照明、カーテン、色、素材、アート。
けれど、本当に考えるべきなのは、その先なのかもしれません。
このダイニングで、誰と食事をするのか。
この椅子に座って、どんな時間を過ごすのか。
この照明の下で、どんな会話をするのか。
どんな人を家に招きたいのか。
そして、一人の時間をどう過ごしたいのか。
空間を整えることの目的は、「素敵な部屋を完成させること」だけではない。
そこで過ごす時間を整えること。
今回のお話を聞いて、そんなことを考えました。
コーディネートから、その人の「スタイル」へ
トークの中で「スタイリングとコーディネートは違う」というお話もありました。
色や素材、家具をきれいに組み合わせることは、技術によってある程度つくることができます。
これからはAIでも、ますます簡単にできるようになっていくのかもしれません。
でも、その人が何を好きで、何を大切にしていて、誰とどんな時間を過ごしたいのか。
そこから生まれるものは、単なるコーディネートではなく、その人自身の「スタイル」になっていく。
スタイルという言葉は、ファッションやインテリアの見た目を表すものとして使われます。
でも本来は、もっとその人の生き方に近いものなのかもしれません。
好きなものを選び、使い、時間を重ねる。
その積み重ねが、その人らしい暮らしになっていく。
だから私は、完成した瞬間だけが美しい空間よりも、住む人と一緒に育っていく空間に惹かれるのだと思います。
なぜ、デンマークは「幸福な国」と言われるのか
トークの後半では、デンマークの「幸福」についても話が広がりました。
福祉制度や社会環境など、幸福度に影響するものはもちろん一つではありません。
その中で、とても印象に残った視点がありました。
それは、
「幸福を求める意識が、とても明確なのではないか」
ということ。
「デンマーク人はみんな幸せ」ということではありません。
むしろ、自分にとって何が幸せなのかを考え、そのためにどのように暮らすのかを意識している。
誰と過ごすのか。
どう働くのか。
何を家に置くのか。
どんな時間を大切にするのか。
そうした日々の小さな選択が、「自分にとっての幸福」とつながっているように感じました。
そこでふと、
「自分にとっての幸福って何だろう?」
と考えました。
そして、それを私は明確に言葉にできるだろうか、と。
意外と難しい問いです。
幸せになるために、何を選ぶのか
「幸せになるために、何を買うか」
この言葉だけを見ると、少し物質的に聞こえるかもしれません。
でも今回のお話を聞いたあとでは、私は少し違う意味に感じています。
たくさん所有するということではなく、
自分が本当に好きだと思えるものを選ぶこと。
好きだから使う。
使うから思い出が増える。
時間を重ねるから、愛着が生まれる。
そうして、ただの「物」だったものが、自分の暮らしの一部になっていく。
インテリアは、その繰り返しなのかもしれません。
だから家づくりや部屋づくりも、完成した瞬間がゴールではなく、そこから始まっていくもの。
少しずつお気に入りを増やして、時間を重ねて、自分の暮らしになっていく。
その過程そのものを、もっと楽しんでいいのだと思います。
これからのデンマークインテリアにも注目したい
今回のトークでは、デンマークが決して「最初から完成された豊かな国」だったわけではなく、歴史の中でさまざまな変化を経験しながら、自分たちが大切にするものを見つけてきたことにも触れられていました。
新しいものへ進むことだけが、進化ではない。
今あるものを見直すこと。
残したいものを守ること。
そして、自分たちにとっての豊かさを考え続けること。
それもまた、ひとつの進化なのかもしれません。
これからデンマークのインテリアがどのように変わっていくのか。
あるいは、大切なものを変えずに残していくのか。
そんな視点で、これからのデンマークデザインを見ていくことも楽しみになりました。
そして何より今回、家具やインテリアを考えることは、結局、
「私は、どう暮らしたいのか」
を考えることなのだと改めて感じました。
何を置くかではなく、その場所で誰と、どんな時間を過ごしたいのか。
お気に入りを見つけ、時間を重ねながら、それが自分にとって大切なものになっていく。
そんな暮らしの過程を、インテリアを通して一緒に楽しんでいけたらと思います。